一時点の財政状態を表す「貸借対照表」
会計の目的は、1年間の活動による「経営成績」と、活動の結果である「財政状態」を明らかにして、利害関係者に説明することでした。そして、経営成績を説明するための書類を「損益計算書」、財政状態を説明するための書類を「貸借対照表」と呼ぶのでした。
社会福祉法人や学校法人、民間企業などの経営体では、例外なく貸借対照表が作成されます。
貸借対照表は、その時の財政状態、つまり時の流れのある一時点の状態を表現します。そのため貸借対照表にはそのタイトルのすぐ下に、必ず「令和○年○月○日現在」と表示されます。その日のその時点での状態を表現する書類だからです。
「貸借対照表」に記す具体的な内容
簡単な例を挙げてみましょう。
Aさんは、1,500 万円の住宅ローンを組んで、 2,000 万円の住宅を購入しました。
Aさんの保有財産は 2,000 万円の住宅ですが、購入資金となったのは500万円の自己資金(頭金)と 1,500万円の借金です。このことを貸借対照表では、向かって左側に保有する財産を、右側にはそれを得るための財源となった、借金と自己資金を記載して、 下図のように表現します。会計では、財産のことを「資産」、借金のことを「負債」と呼びます。
「純資産」は純粋な資産という意味の言葉で、住んでいる家は2,000万円だけれども、自分のものになっているのはまだそのうちの 500 万円分だけ、というイメージです。
ですから純資産の額は、資産の額から負債の額を減算することで求めることができ、 逆に言えば、負債と純資産の合計額は、必ず資産の額に等しくなります。
貸借対照表の左右の合計額は 必ず一致するので、貸借対照表のことを「バランス・ シート」(Balance Sheet)、略して「B/S」(ビー・エス)と呼びます。
法人のB/Sでは純資産とその比率が重要
経営体のB/Sはもう少し複雑です。紙幅の関係で、ここではB/Sを表示することが難しいので、どうぞお手許でご自身の法人の令和2年度末のB/ Sを用意してみてください。
まずタイトルに「貸借対照表」とあり、その下には「令和3年3月31 日現在」と書かれていますね。 その貸借対照表は、その時点での法人の状態を表しているのです。
次に、向かって左側の一番上には「資産の部」、右の一番上には「負債の部」、そして右下のほうに目を移すと「純資産の部」がありますね。 左の一番下には資産の部の合計金額が記載されていて、右の一番下には負債の部と純資産の部の合計金額が記載されており、当年度末の欄も前年度末の欄も、どちらも同じ金額で一致しているはずです(万が一、不一致ならば大事件です! すぐに理事長に報告してください! )。
このように、B/Sの左側には保有資産が、右側にはそれを得るための財源が表現されますが、同じ資産を得るならば借金は少ないに越したことはありませんから、一般に負債は少ないほうが健全だと言えます。
裏を返せば純資産は大きいほうが望ましいのです。そのため、純資産の額を総資産の額で割って求めた割合(これを「純資産比率」と言います)は、 保有資産のどの程度が純資産となっているかを表します。
純資産比率は現在の状態の良し悪しを表す指標として用いられ、言うまでもなくその比率が高いほど健全だと考えられます。
それでは次回は、B/Sをもう少し詳しく読み解いてみることにしましょう。
まとめ
- B/Sの左は保有資産、右は資産取得のための財源
- B/Sの左右は必ず一致する
- 純資産比率=純資産の額÷資産の総額
- 純資産は大きい方がよく純資産比率も高い方が健全と言える
本コラムは、公益社団法人全国私立保育連盟様が発行している『保育通信』2022年4月~2023年3月号の中で、『いちから学ぶ保育施設の会計・経営』と題して松本和也(取締役・上席研究員)が連載させていただいたものです。保育施設の会計処理や計算書類、経営等につきましてまとめさせていただいておりますので、ご覧ください。