“お金持ち”ってどんな人?
“お金持ち” という言葉がありますが、皆さんはどんな人を想像しますか? 現金を1億円持っている人は “お金持ち” と呼んでいいかも知れませんが、 現金は少しでも1億円の自分の住宅に住んでいる人は “お金持ち”でしょうか。
1億円の現金も1億円の住宅も1億円の資産であることに違いはないのですが、資産の内容(性質)には違いがあります。
現金は明日からの生活費(食費や光熱費)に充てることができますが、住宅は売却して現金に換えなければ、生活費には充てることができないからです。
B/Sの話に戻りましょう。B/Sは一時点の財政状態を表現したものですから、すべての資産と負債を漏れなく、そして正しく記載しなければなりません。
もし一部の資産や負債を意図的に歪曲して記載したり排除したりすると、純資産の額も正しく計算されないことになってしまいます。これが「粉飾決算」です。
では、第2回で挙げた例に少し内容を加えて、考えてみましょう。
保育施設の資産と負債の考え方
Aさんは、1,500 万円の住宅ローンを組んで、2,000万円の住宅を購入しました。また、今Aさんの財布には10万円の現金と2万円の電気代の請求書が入っています。
B/Sには図1のように表現されます。個人の家庭でも実際には他にさまざまな資産や負債があります。乗用車や家具、株券などは資産、友だちからの借金は負債です。B/Sにはこれらを漏れなく、正しく記載します。
では、皆さんの職場の机の引出しの中を想像してみてください。半分になった消しゴムやシャープペンシルの芯など、いろいろなものがありますね。これらは法人のお金で購入した資産ですが、このようなものまでB/Sに記載していてはきりがないので、社福会計では10万円未満で購入したものはB/Sに表現しなくてよいと割り切り、10 万円以上のものだけを資産として表現することにしました。
10 万円以上のものに限ったとしても、すべての資産や負債を不規則に並べるととてもわかりにくいので、一定のルールを決めて整理します。
まず資産を「1年以内に現金にできるもの」と「1年たっても現金にならないもの」に分け、前者を「流動資産」、 後者を「固定資産」とします。
前出のB/Sで現金は流動資産、住宅は固定資産です。同様に負債も「1年以内に返済すべき借金」である「流動負債」と、「1年を超えて返済する借金」である「固定負債」に分類します。請求書は流動負債、住宅ローンは固定負債です。この基準のことを「1年基準」(ワンイヤールール)と言い、1年基準によって先ほどのB/Sを整理すると図2のようになります。
設備資金借入金の「1年基準」には要注意
ここで、ご自身の施設のB/Sをお手許に用意してみてください。
流動負債の中に「1年以内返済予定設備資金」という表示のある場合があります。設備資金借入金は園舎建設時の借金ですから固定負債ですが、年度末の借入金残高には次年度に返済する分が含まれ、返済期限は1年以内に到来します。そのため設備資金借入金残高のうち1年以内に返済すべき額は、1年以内返済予定設備資金借入金として流動負債に表示します。
“1年以内” の名称が付されたものはすべてこのような考え方によるものです。
冒頭の「お金持ち」は、本当は「流動資産持ち」 と言う方が正しいのかも知れませんね。
次回は、「支払資金」について、考えてみることにしましょう。
まとめ
- B/Sは「1年基準」によって分類して表現する
- 1年以内に現金に変えることができる資産が「流動資産」、ならない資産が「固定資産」
- 1年以内に返済すべき負債が「流動負債」、1年より長くかかって返済する負債が「固定負債」
本コラムは、公益社団法人全国私立保育連盟様が発行している『保育通信』2022年4月~2023年3月号の中で、『いちから学ぶ保育施設の会計・経営』と題して松本和也(取締役・上席研究員)が連載させていただいたものです。保育施設の会計処理や計算書類、経営等につきましてまとめさせていただいておりますので、ご覧ください。